大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)14174号 判決 1969年1月31日

原告

戸塚運送株式会社

ほか一名

被告

大徳運送株式会社

主文

被告は原告戸塚運送株式会社に対し金四三六、〇〇〇円、原告小林明に対し金五〇、〇〇〇円およびこれらに対する昭和四三年一月一三日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の、各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告は原告戸塚運送株式会社(以下原告会社という。)に対し金七六七、一〇四円、

原告小林明(以下原告小林という)に対し、金一七五、三九二円およびこれらに対する昭和四三年一月一三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告小林は、次の交通事故によつて損害を受けた。

なお、この際原告会社はその所有に属する後記自動車を大破された。

(一)  発生時 昭和四二年一一月二六日午前一一時一〇分頃

(二)  発生地 東京都千代田区隼町九番地先交差点

(三)  加害車 普通貨物自動車(足立一き七一七号以下被告車という)

運転者 訴外中野正美(以下訴外中野という)

(四)  被害車 小型貨物自動車(練馬四え、五九三三号以下原告車という)

運転者 原告小林

(五)  態様

原告車が右交差点を三宅坂方面から麹町方面に向け進行中、同交差点を赤坂見附方面より三宅坂方面に向け進行して来た被告車に左側面に激突され、そのはずみで原告車は進行方向左側に設置してあつた訴外東京電力株式会社所有にかかる電柱に衝突した。

(六)  被害者 原告小林の傷害の部位程度は、次のとおりである。加療一五日以上を要する左肩甲部打撲、左背部打撲擦過創。

二、(責任原因)

被告は、次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)  被告は、加害車を所有し業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告は、訴外中野を使用し、同人が同被告の業務を執行中、後記のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

なお、訴外中野には事故発生につき、次のような過失があつたものである。

被告者が信号が黄色になつているのに交差点に進入した過失、

三、損害

(一)  原告会社の損害

(1) 原告車破損による損害金六二二、〇〇〇円原告会社は原告車を本件事故の四日前である昭和四二年一一月二二日訴外轟自動車株式会社より金七三二、〇〇〇円で購入したものであるところ、本件事故により使用不能となり、その残存処分価格は金一一〇、〇〇〇円にすぎず、したがつて右差額である金六二二、〇〇〇円の損害を受けた。

(2) 営業上の損害 金八四、二〇〇円

原告会社は原告車の運行により一日当り金二、一三二円の利益を取得していたところ事故により原告車が使用不能となり、事故の当日である昭和四二年一一月二六日より同年一二月二〇日までの二五日間に得べかりしものであつた金八四、二〇〇円の営業上の損害を受けた。

(3) 損害補償に基く求償 金六〇、九〇四円

原告車は前記のように被告車に衝突された反動で東京電力所有の電柱を破損したが、右破損による東京電力の損害は金六〇、九〇四円であり本件事故による相当因果関係の範囲内の損害として被告に於て責任を負うべきところ東京電力の請求に基き原告会社が被告に代り支払をなしたものである。

(二)  原告小林の損害

(1) 休業損害

原告小林は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ金二五、三九二円の損害を蒙つた。

(休業期間)本件事故により昭和四二年一一月二六日から同年一二月一一日まで一六日間会社欠勤を余儀なくされた。

(事故時の日収)原告小林の過去三ケ月間の一日当りの平均手取収入は金一、五八七円であるので一六日に該当する金二五、三九二円の収入を喪失し、同額の損害を受けた。

(2) 慰藉料

原告小林の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み金一五〇、〇〇〇円が相当である。

現在にいたるまでも左肩から背部への疼痛は残り、後遺症の不安も大きい。

四、(結論)

よつて、被告に対し、原告会社は金七六七、一〇四円、原告小林は金一七五、三九二円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一月一三日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項の中傷害の程度、原告破損の程度は争うが、その余は認める。

第二項の内訴外中野の過失の点を否認し、その余は認める。

第三項は不知。

二、抗弁

(一)  過失相殺

原告車と被告車は同一道路を対向して進行し本件交差点に至つたものであるから、両車とも同一の信号を表示する信号機に従つて交差点を通過する関係にある。

被告車は黄信号によつて交差点に進入し、その直後横断歩道を越えた地点において赤信号に変つたのであるが対向車は勿論左右から進入する車両がなかつたので、そのまま交差点を速かに出るべく進行を続けたところ、突然原告車が進路右側から飛び出したのである。従つて、原告車も赤の信号が少くとも黄の信号で交差点に進入したこと明白である。

さらに現場は高速道路の橋脚があり見透しが悪い所であつたから右折にあたり、直進する対向車に格別の注意を払うべきであつた。原告小林はこれを怠つた。右のとおりであつて事故発生については原告小林の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(二)  相殺

本件事故によつて被告は左のような損害を蒙つた。

(1) 被告車の破損による損害

被告車は凡そ一年半前に購入したものであるが本件事故によつて使用不可能となつたためこれを処分するの已むなきに至り一〇万円で処分したが当時五〇万円の価格を有していたからその差額四〇万円。

(2) 中外石油株式会社に対する補償

被告者は原告車との衝突により、訴外中外石油株式会社経営のガソリンスタンドに進入したため同スタンドの諸設備を破損した。その損害額二六六、〇〇〇円を支払つた。

(3) 久野文三に対する補償

被告車は前記ガソリンスタンドに進入した際同スタンドに停車中の訴外久野文三所有にかかる自動車に衝突し破損を与えたため、同人にその損害九九、七〇〇円を支払つた。

被告は以上合計七六五、七〇〇円の損害を蒙り、原告小林は原告会社の業務執行中に本件事故を起したものであるので、不法行為に基く債権を有する。従つて原告会社の債権に対し本訴において相殺の意思表示をする。

第五、抗弁事実に対する原告の認否

過失相殺の抗弁は否認する。相殺の抗弁につき、原告小林が業務執行中であつたことは認め、損害額は不知。

第六、証拠関係は本件記録中証拠目録のとおりであるので引用する。

理由

一、請求の原因第一項中原告小林の傷害の程度、原告車の破損の程度を除き当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告小林は本件事故により左肩甲部打撲、左背部打撲擦過創の傷害を受け昭和四二年一一月二六日から同年一二月一一日まであそか病院に通院治療をうけたこと、原告車が多額の修理費を要する程度に損壊されたことが認められる。

二、請求の原因第二項中訴外中野の過失の点を除き当事者間に争いがない。そこで、訴外中野及び原告につき本件事故発生に過失があつたか否かを判断する。

〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。

(一)  本件交差点の状況

本件交差点は平河町交差点より三宅坂方面にいたる東西の幅約二〇メートルの道路と国会方面より麹町二丁目方面にいたる南北の幅約一〇メートルの道路が交差する地点で、信号機が設置されており、東西の道路のほぼ中央線に添つて高速四号線の橋脚が設置されているので三宅坂方面から右折する場合左方の見透しはよくない。

なお制限速度は時速四〇粁と定められている。

(二)  原告車の進行状況

原告車は三宅坂方面から西進して本件交差点にいたり、停止線を越えるとき進路前方の信号機(平河町方面)は黄であつたが交差点に入り右折を始め、ほぼ中央線にある前記高速道路の橋脚近くまで進んだ。このとき原告車は停止寸前の速度であつた。ここで麹町二丁目方面の信号機の信号は青であり、左方の横断歩道附近に停車した二台の自動車を確認したが他に左方より来る自動車を確認しなかつたため、右折を終え加速し進行し始めた。

(三)  被告車の進行状況

被告車は平河町方面から三宅坂方面に向けて時速約五〇粁で進行し、交差点に入るとき停止線を越えた時に進路前方の信号が黄になつたのを確認したが、そのままの速度で早く交差点を出ようとした。

(四)  衝突の状況

交差点のほぼ中央で原告車の左前部に被告車の前面が衝突し、この衝撃により原告車は約一五メートル離れた電柱まで飛ばされ電柱を折損し、被告車は約二六メートル離れた中外石油株式会社ガソリンスタンド内に飛ばされた。被告車には左、右共約一〇メートルのスリップ痕があつたが、原告車にはこれがなかつた。

そして、原告車が麹町方面の信号が青となつているのを確認して右折しているのであるからこの時点においては既に被告車進路前方の信号は赤に変つていたものと推認できる。

右認定事実によれば、原被告車とも黄信号で交差点に入つていたものであり、双方とも交差点外に出るべき義務があつたところ、被告車は直進、原告車は右折により交差点外に出ようとし、原告車は既に右折を了し、その進路の信号が青であり、被告車は進路の信号が赤となつた後なお直進し衝突したものであるので、かかる段階においては直進車の優先の原則は適用はないというべきであり、訴外中野には道路交通法第三七条二項違反の過失がある。他方、原告小林においては道路中央線上に高速道路橋脚があり左方の見透しが良くない状況であつたのであるから、さらに徐行又は一時停止をする等の方法により安全の確認をなすべき注意義務があつたといわねばならない。しかして、以上の事項に訴外中野に制限速度超過のあつたこと等を考え合わせ原告小林と訴外中野の過失の割合は概ね二対八とみるのを相当とする。

三、損害

(一)  原告会社の損害

〔証拠略〕によれば、原告会社は原告車を昭和四二年一一月二二日該自動車株式会社より七三二、〇〇〇円で購入したものであるところ、本件事故により修理不能程度の損害を蒙つたのでその自動車を一一〇、〇〇〇円で下取りに出し同種の自動車を購入したこと、原告小林が本件事故により一六日間原告会社を欠勤したこと、原告会社は原告車を営業用に使用し一日平均稼働高は五、五〇〇円、これに要する人件費、燃料及油脂費は一日平均二、一三二円であつたこと、本件事故により折損した電柱等の補修費として原告会社は東京電力株式会社より六〇、九〇四円の請求がなされていることが認められる。

従つて、原告会社の損害は、自動車破損による損害として六二二、〇〇〇円、営業上の損害として、原告小林が欠勤した一六日間(破損車を下取りにして新車を購入するに要した期間も同期間位と推認する。)につき、一日三、三六八円の割合により五三、八八八円、東京電力の求償分六〇、九〇四円合計七三六、七九二円となるが、前記原告小林の過失を斟酌し、被告に賠償を求め得る金額は五八九、〇〇〇円(千円未満切捨)となる。

(二)  原告小林の損害

(1)  〔証拠略〕によれば、原告小林は本件事故により一六日欠勤し、一日平均一、五八七円、合計二五、三九二円の給与を得ることができなかつたことが認められ、前記原告小林の過失を斟酌すれば、二〇、〇〇〇円 (千円未満切捨)となる。

(2)  前認定の原告小林の傷害の程度通院期間、同人の過失及び同原告本人尋問の結果により認められる、同原告は雨が降ると左肩に痛みを感じること、充当関係は明らかではないが強制保険より四万余円を受領していること等を考慮し同原告の受くべき慰藉料は三〇、〇〇〇円が相当である。

四、相殺

原告会社は同小林の使用者であり業務執行中に本件事故が起きたことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、(1)本件事故により被告車は修理不能程度に破損され、当時五〇〇、〇〇〇円前後の価値があつたものであるが、一〇〇、〇〇〇円で下取りとされたこと、(2)被告車は中外石油株式会社のガソリンスタンドに飛び込み諸設備を破損したため被告において二六六、〇〇〇円の補償をなしたこと、(3)同ガソリンスタンドに駐車してあつた久野文三所有の自動車を破損し、同人に対し被告は九九、七〇〇円の補償をなしたことが認められる。従つて被告の損害は七六五、七〇〇円となるが、被用者である訴外中野の過失を斟酌すれば一五三、〇〇〇円(千円未満切捨)となる。またこのような同一事故による相互の不法行為債権については、民法第五〇九条にかかわらず相殺は許されるものと解すべきであるから被告の原告会社に対する相殺は右の限度で有効というべきであり、被告の原告会社に対し差引四三六、〇〇〇円の支払をなすべき義務を負うこととなる。

五、よつて、本訴請求のうち原告会社の被告に対し四三六、〇〇〇円、原告小林の被告に対し五〇、〇〇〇円及びこれらに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四三年一月一三日以後支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当とし認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治)

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